賃貸入居者の認知症トラブルとは?賃貸借契約やトラブルを防ぐ対応をご紹介

オーナー様向け

中村 亮太

筆者 中村 亮太

不動産キャリア5年

賃貸入居者の認知症トラブルとは?賃貸借契約やトラブルを防ぐ対応をご紹介

高齢者人口が増え続けるにつれて、認知症の方の割合も年々増加しています。
賃貸経営をしている方のなかには、入居者に認知症の方がいる場合、どのように対応するべきか不安を覚える方もいるでしょう。
今回は、賃貸物件の入居者による認知症トラブルの例や、認知症の入居者との賃貸借契約はどうなるのか、トラブルを未然に防ぐための対応についてご紹介します。

賃貸入居者の認知症によるトラブル

賃貸入居者の認知症によるトラブル

高齢化が進む中トラブルを防ぐには、初期段階からの周囲の注意が欠かせません。
賃貸物件の入居者が認知症になると、さまざまなトラブルが起こり得ます。
ここからは、入居者が認知症になった場合に想定されるトラブルをご紹介します。

家賃滞納のトラブル

金銭管理は通帳や印鑑の保管状況にも影響を与え、家族などによる継続的な確認が重要です。
認知症になると判断能力が衰え、金銭管理が困難になることが特徴です。
お金の出し入れや家計の管理がうまくできなくなることで、家賃の滞納につながることがあります。
認知症の方の場合、家賃を滞納しているからといって必ずしも金銭的に困っているわけではありません。
資金があっても、家賃の振込や口座に必要なお金を移す手続きがうまくできず、結果的に滞納することがあります。
家賃の支払い自体を忘れたり、支払ったかどうかの記憶があいまいになることもあります。
家賃の滞納が発生しても、それだけで直ちに退去を求めることはできません。
家賃滞納のトラブルが発生し、実際に退去を求めるまでには、半年程度の期間を要する場合が多いです。

ゴミ屋敷化のトラブル

散乱したごみは害虫の原因となり、衛生面に悪影響を与えるため、十分に理解することが大切です。
認知症が進行すると、身の回りのことや家事の管理が難しくなります。
計画的に家の中を整えることが困難になり、掃除や洗濯をしないままであったり、物を取り出しても元の場所に戻せずに放置したりすることがあります。
また、買い物をした記憶が薄れ、同じものを何度も購入して物があふれることもあるでしょう。
さらに、地域のルールに従ってゴミを出すことが難しくなるため、部屋がゴミ屋敷化するトラブルにつながることがあります。
ほかにも、入浴を嫌がって長期間入浴しない、失禁を繰り返しても処理できず汚れた衣類を放置するなどの行動により、異臭が発生することもあります。

火災のトラブル

火の消し忘れは周囲にも影響を与えるため、警報器や安全装置の導入が不可欠です。
認知症が進行すると日常生活全般の管理が難しくなり、火災の危険性も高まります。
キッチンのガスコンロをつけたまま忘れてしまい、鍋を焦がして火災に発展するリスクが考えられるでしょう。
また、ストーブに洗濯物や衣類をかけたり、カーテンが触れたりすることも火災の原因となる懸念があります。
加入している火災保険の内容によっては、認知症の方が心神喪失状態とみなされ、補償が適用されない可能性があるため、注意が必要です。

認知症の入居者との賃貸借契約はどうなる?

認知症の入居者との賃貸借契約はどうなる?

初期から高齢者の状況を把握しておくことは、話し合いをも進めるための視点です。
入居者が認知症かもしれないと感じた場合、その状態が賃貸借契約にどう影響するかを理解しておく必要があります。
ここからは、認知症の入居者との賃貸借契約について確認します。

契約解除や退去要請は難しい

症状を見極めるには、医療機関などとの連携を通じ、適切で客観的な判断が必要です。
賃貸物件の入居者が認知症を発症していても、認知症そのものを理由に賃貸借契約を解除したり、退去を求めたりすることは難しいです。
認知症の入居者を一方的に退去させることは、人道的にも問題があるといえます。
また、認知症が初期段階であれば、日常生活に大きな支障がない場合も少なくありません。
ただし、認知症は進行する病気であり、進行速度には個人差が大きいため、症状が悪化してから対策を講じても対応が遅れることがあります。
入居者本人の判断能力に問題がない段階であれば、今後の賃貸借契約について本人と話し合う機会を持つことが望ましいです。
本人の判断能力がすでに低下している場合は、連帯保証人や親族とともに話し合い、今後の対応を検討することが推奨されます。
もし話し合いが難航したり、判断能力が大きく衰えていたりする場合は、第三者機関や専門家への相談も検討してください。

代理人を立てる必要がある

認知症では手続きが難しくなるため、後見制度を早期に検討する必要があります。
入居者が認知症を発症しても、裁判などで部屋を明け渡してもらうよう訴えることは容易ではありません。
これは、認知症の方が意思能力を欠くとみなされる場合、単独でおこなった法律行為が無効となり、賃貸借契約の変更ができなくなるためです。
そのため、認知症が疑われる段階で代理人になってくれる方を確保することが重要です。
入居者が一人暮らしで認知症の疑いがある場合、管理会社を通じて親族に連絡することが望ましいでしょう。
遠方に住んでいる親族は、本人と会う機会が少ないため、認知症の発症に気づかないことがよくあります。
もし家賃の滞納やゴミ出しの問題、徘徊や問題行動など、認知症を疑う状況があれば、早めに親族へ報告することが大切です。

賃貸入居者の認知症トラブルを未然に防ぐ対応

賃貸入居者の認知症トラブルを未然に防ぐ対応

トラブルを減らすには、入居時から家族との情報共有をしておくことが望まれます。
今後、高齢者の増加に伴い、入居者の認知症トラブルも増えていくと考えられるでしょう。
ここからは、そうしたトラブルを未然に防ぐための対応策をご紹介します。

連帯保証人の協力を得る

連帯保証人には定期的に連絡を取り、入居者の様子を十分に把握することが大切です。
まだ認知症の症状が見られない場合でも、高齢の入居者がいる賃貸物件では、連帯保証人との連絡体制を整えておくことが安心です。
連帯保証人の協力が得られそうであれば、日頃からこまめに連絡を取り、認知症の症状が現れたり進行したと感じたりした場合には、早めに相談することが重要になります。
普段から連帯保証人に状況を報告しておけば、信頼関係を築けるため、万一トラブルが発生してもスムーズに対応できます。
連帯保証人にとっても、何かあったときにすぐ連絡を受けられることが分かれば、安心につながるでしょう。

法定後見人の申し立てをおこなう

申請には書類や費用の確認が伴い、家庭裁判所での手続きを進める準備が重要です。
連帯保証人の協力が得られない場合は、法定後見人の申し立てを検討してください。
法定後見制度は、判断能力が不十分な方の法律行為を補佐する制度です。
この制度には複数の種類があり、たとえば「成年後見」では、すべての法律行為に関して代理権、同意権、取消権を行使できます。
また、民法13条1項で定められた行為のすべて、または一部を対象とする代理権、同意権、取消権を有する「保佐」や「補助」もあります。
本人または行政が裁判所に申し立てることで、成年後見人などが金銭管理や社会福祉サービス契約を実施するなどの支援を受けられるでしょう。
成年後見人を選任するには、家庭裁判所へ成年後見人選任の申し立てをおこなうことが必要です。
成年後見人は子どもなどの親族が担当するケースが多いですが、遠方に住んでいて財産管理が難しい場合や、親族に財産状況の問題がある場合は、裁判所によって司法書士などの専門家が選任されます。

見守りサービスを紹介する

見守りサービスは、電話訪問を通じて入居者を見守る手段として活用されています。
認知症の入居者を支援する方法として、高齢者が入居するアパートに見守りサービスを導入することも一つの選択肢です。
このサービスを利用することで、オーナーだけでなく、入居者本人やその親族も安心することができます。
また、自治体や地域包括支援センターに相談し、入居者への生活支援を依頼することも有効な方法です。

まとめ

賃貸入居者の認知症によるトラブルとしては、家賃の滞納、ゴミ屋敷化、火災などが挙げられます。
たとえ認知症であっても、契約解除や退去を求めることは容易ではありません。
トラブルを未然に防ぐためには、連帯保証人に協力を仰ぐ、法定後見人の申し立てをおこなう、見守りサービスを活用するといった対策が考えられます。


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